観た!

観客。

メタルマクベス〜劇団☆新感線


――きれいはきたない ただし俺以外
 クドカンのこの歌詞、最高。


 ◆


 青山劇場に来るのは、2年前の「デーモン小暮の邦楽維新」以来かな……?
 そのときには思わなかったけど、中に入って、「ここも古い劇場の仲間入りをしたなあ」と思った。ツクリとか、いろいろ。
 先日、まつもと市民芸術館伊東豊雄設計)に行ったからかもしれない(あ、『メタルマクベス』もやってたんだよね)。新しいし、あの空間の贅沢な作り方は地方都市ならではかな(都心じゃ無理)、とも思った。「ヒト」もね。土曜の松本市民芸術館はその広いロビーにぱらぱらと人がいて、まったりと時を過ごしていた。平日6時開演という条件の青山劇場は、滑り込んでサンドイッチなどを食べる人がロビーにたくさん。土地柄・お日柄ですなあ。
 スペースといえば女子トイレは何とかならんか。休憩25分でもギリギリだもんね。この休憩の長さ、歌舞伎座か! と思ってしまいましたよ(ご飯を食べるために30分とかある)。

 今回の席は、後のほうだけれどもほとんど正面で、客席にまで飛び交うライトも楽しめ、好位置だったといえる。


◇◇◇


 幕は上げられたままの舞台は開演前から見えている。ホリゾントは巨大スクリーンで、衝撃音とともにそこに文字が映る。


  携帯電話の電源は
  KILL!!

  それが芝居を観るマナー
  DEATH!!

(^^;


 ま、そんなノリの芝居なわけである。
 劇団☆新感線の音響はもともとヘヴィメタルなロックであるが、今回は、舞台右下にバンドのボックスがあって、ほとんどシルエットではあるが、そこで演奏している姿が見える……歌舞伎みたいだな。途中一度、指揮をしているシルエットが見えた。普通ロックに指揮者はいないが、芝居の進行と合わせるためにいたのか、だれかがのりのりだったのか、それとも微妙な演出か?? ま、進行のためにおいているというのが一番ありえるか。
 komugikoはわりとロック好きである。70年代〜80年代ハードロック&ヘヴィメタルプログレが好き。つまりまあ、おおざっぱに新感線の系統であります。同行の友人はロック未体験。てゆうか、彼女、うちに遊びに来て、「音楽かけていい?」と言ってはかならずロック以外を選ぶ方である。うちのCDの9割が洋楽ロックであるにもかかわらず、である。
 で、生のバンド演奏での上演というおいしさ。友人は、プロのロック演奏を聴いたのは初めてだという(ほら、高校の文化祭とかでは……)。で、「ロックもいいね」と言っていた。ん、いい。komugiko的には、最初は微妙な感じがしたけど。
 なつかしいようなロックサウンド。でも音が小さいし、全体に整っている。ライブじゃないからね。芝居用の音楽だからね、耳がキーンとしてどうするっていう(^^; あと、バランス上、もっとベースが前面に出てくるほうが好みだったりするんだけど。……って、ついライブ感覚で耳が聞きたがるんだよね。ちがうってば、芝居だから、と自分に言いながら、やがてこの世界に慣れる。引き込まれる。


 ◆


 一番単純な感想は、
 上条恒彦かっこいいっ。
 松たか子うまっ。
 である。

 上条は出演者中一人でトシヨリであるが、さすが声が出る。
 音楽劇と言っても、バンドは本物のミュージシャンだが、舞台上で本物のシンガーは上条と冠徹弥の二人だけ。この二人が掛け合いで歌うところは圧巻。冠の金切り声シャウトに、上条のおなじみの朗々たる! が答える。
 んーーー、全部このレベルだったら、まじ、ロックオペラとして楽しめるんだけどな。(ロックオペラって響きも懐メロだなあ。『ジーザスクライスト・スーパースター』とか。あれは全員すごいシンガーだったから……)。
 いや、他の出演者も、ちゃんとうまい。アクターが本業の人としては、という但し書きつきなら、みんな声も出るし音程も確かだし、ジャニーズなんぞは赤面すべしという実力。だが、あきらかに「本職の歌い手じゃない」のだ、残念ながら。
 その中で一番巧かったのは松たか子かな。主役内野聖陽も声がきれいだし。ただ、二人とも、シンガーならできる「めりはり」が、ちょっともう一息。だからバラードはわりといい。声も出やすいし、役者としての「入り方」で味が出せるのかな。激しいのはねえ。少なくとも冠君(役名)が同じ舞台でめりはりしちゃってるから、正直物足りない。物足りないが予想外にマシだったのが森山未来。いや、松・内野より落ちるけどさ。声悪くないし、音程しっかりしてるし。伸びないだけ。

 と、先に歌のことばかり書いてしまったが、「松たか子うまっ」は、歌のことじゃない。それはあくまでまあまあ。
 演技である。
 以前、他の舞台を見ても思ったのだが、彼女、テレビよりぜんぜんいい。というかテレビがまったく彼女を生かしていないのか。
 声が澄み渡るように通る。動きにキレがある。立ち姿がきれい。
 そして……。
 もちろん、前半のキャピキャピなノリも本人楽しんでるんだろうし、いい感じだった。だが、「うまっ」と思うのは、怖いところ、凄いところ。あんな後の客席まで、それが伝わってくる。マクベス(っていうかランダムスター)を追い詰めたり、殺させておいて自分がおいつめられたり、そのへんが、何を特別なことをやるのではないのだが、怖さ凄さがたたずまいに出る。

 それがわかりやすかったのは、最後の方、「手を洗っても洗っても血が落ちない」幻影に囚われるところだ。
 彼女は一生懸命手をすり合わせる。
 ただそれだけがなんだか怖い。
 それを覗き見ている門番と医師。ここで、なにしろ脚色はクドカンだから、彼らにこんなことを言わせる。「あ、ハエみたい」えらい軽い口調である。
 客は笑う。
 笑うけど、怖さは消えるわけではない。
 松は、「ハエみたい」を受けて、頭の上で手をすり合わせる。
 「あ、ハエみたい」 また門番が言う。
 客は笑う。
 笑うけど、怖さは消えない。

 そりゃあ、音響も照明も総出で、「そこはかとない凄み」が出るように工夫しているのさ。そうだとしてもね。肝心の役者が……ちゃんと凄い。
 どこをどうしたらすごい、っていう理屈じゃないんだよね。だって、カッコだけ見たら「ハエ」だよ(^^;
 今後、出演者に「松たか子」とあったら、「観る候補」にとりあえず入るだろうな。

 そう、彼女には必要ない言葉が、頭によぎった。
「隔世遺伝かもしれないね。あの、なにげないのに滲む『凄み』は、祖父の先代幸四郎白鸚)ゆずりだ」
 ま、彼女が男で歌舞伎役者になっていたら、こういうヒヒョウは日常的にされてたわけなので、ちょっと言ってみました。


 ◆


 冒頭は、まるで宮藤官九郎が「メタルマクベスという芝居を書け(ま、脚色だけど)」と言われて、最初のほうでやっただろう作業なんじゃないだろうか。少なくとも、そのままシェイクスピアを演じるならば必ず出てくるのだろうステップ。「だれの訳でやるのか」。
 ここで松岡か小田島か、というのがリアルにいまどきである。芝居の設定は200年後だが、それまでほかに誰も訳さないのかというのはさておき、福田とか坪内とか出てこないのが、クドカンぽいというか日常的というか。

 シェイクスピアの『マクベス』をなぞって進む200年後の廃墟東京の登場人物に割り振られているのは、ランダムスター、レスポールなど、ギターのメーカーやタイプの名前が振られている。主に。そして、80年代に存在した「メタルマクベス」というバンドのメンバーに「マクベス内野」「マクダフ北村」と、『マクベス』の登場人物の名が冠せられている(でも「ナン・プラー」って誰(^^;)。で、その「メタルマクベス」の音楽の歌詞が最初の「予言」となっていくのだけれど。
 なので、主要人物は二役である。ランダムスターとマクベス内野とかね。
 その二重性が途中から混乱してくるのも、マクベス夫妻の狂気の一部になっている。

※余計な雑感


  • ストラトキャスターとかいうのはさすがにベタで名前にならなかったのか、適度なキャラがいなかったのか。
  • ベーシストと呼応する王の側近が「グレコ」って。「ベーシストならプロになったらフェンダーとかギブソンとか使えばいいのに」って、ベーシストならリッケンバッカーだろ! という個人的コダワリはさておき。スティングレイでも……というのもさておき。いや、わかってますよ。地味なキャラというかちょっとダサいというかでグレコなんでしょ? リッケンとかだったら最初から強そう偉そうだもんね。
  • 「おまえらの音楽はみんなヒープかサバスの亜流だ!」……んー、どっちかっていうとレインボー系じゃね? ギター80年代ネオクラシカルを彷彿としたから、イングヴェイ、そのモトはブラックモアっていう印象だからかもだけど。あ、でも、サバスの最後のアルバム"Forbidden"にはテイストにてたかも。デビューから四半世紀後に、若い連中のプロデュースで自己模倣させられたやつだけどさ。
  • エース清水はマジ足長っ顔小さっだったな。ふつう「今時の子背が高い、足長い、顔小さい」と思うのに、彼より若い役者たちを見て、「あのおっさん長かったんだなあ」とか思った。革パンの腿に鎖巻きつけたファッションだったりすると、昔エースがこれみよがしにそんなかっこしてたの思い出し、鎖の上下にもっと脚が続いてたよな、とか思った。北村有起哉のみエース体型。
  • あ、「彼らはコンサートを戦と呼んだ」とか、「マクベス内野」という命名とか、いちおう聖鬼魔IIのイメージ?

 


 とまあ、ハンパなロックファンは余計な雑感も楽しみつつ見ていたわけだが、もちろんこんなことは考える必要はない。

 なんていうか、時代ってさ、いつでも「一昔前はダサい」んだよね。80年代には70年代が、90年代には80年代がダサかったんだよね。で、新感線とかクドカンとか、80年代思春期世代が脂乗るころになってくると、ちゃんと再評価されてくるわけだよね。
バンド「メタルマクベス」のドラマの部分には、komugikoも過ごしてきた80年代の「思ひ出」がいやらしくならない程度にちゃら〜んと並べられている。ま、同世代だけれどもそうしたサブカルチャーと無縁だった同行の友人には、純粋に創作の世界として見え、「当時そうだったのか」とごく単純な受け取り方もできる。このへん、作家と演出家うまし。


 ランダムスター=マクベスも、ランダムスター夫人=マクベス夫人も、原作のイメージより可憐である。「クドカンシェイクスピアを脚色する」と言ったら、shinbashiが、「クドカンがやるとちっちゃくなる」(彼はクドカン好きである、念のため)と言っていたが、ま、そのとおりです。
 komugiko、個人的に『マクベス』は印象が強い。最初は、小学校5年ぐらいのときに、子供向けのシェイクスピアで読んで、えらい怖かった。中学のときに、家にあった福田恒存訳で、有名どころは読んだ(マクベスハムレットリア王ロミオとジュリエット、オセロ、ベニスの商人、夏の夜の夢……かな?)が、このときも怖かった。なんていうか、一番重厚な風景がイメージされたんだよね、当時。そういう意味では「メタル」と相性がいいのもマクベスだと思う。
 それがすっかり、「ちょっと野心を持ったふつーの夫婦」みたいに描かれちゃって、でもまあ、これもありか、と思わせるのがクドカンではある。でも、上記の「血が落ちない」シーンをはじめ、要の場面やセリフはしっかり生かされていて、ああ、やっぱりシェイクスピアすごいんじゃないか、とも思う。
 てな難しいことは考えず、これはこれ、で、派手な装置や衣装、豪華な生バンド、うまくて花のあるキャストで、贅沢に楽しむ。これが新感線&宮藤官九郎マクベスだったと思う。
 怖いところはちゃんと怖くしているところが、全体の贅沢なエンタテイメント性を保障した。

 ラストは派手でしたね〜〜〜。城が崩壊しちゃうからね。轟音と閃光。
 ライティングはコンサート系だし。これ、ほんとに後のほうで正解だったかも。あの、ライトが後まで走ってくる「距離感」が好きなんだよね。

 でも、ロックコンサートではなく、青山劇場での芝居だったわけで。
 最後の方で、ライトが客席にも向いたときに感じた違和感は、「アリーナが大人しく座ってる」ことだったりした(^^; 
 瓦礫の中から這い出してきたグレコが、何者かの(ランダムスターだろうな)ちぎれたうでを持っていて、高々と差し上げる。
「これが悪魔の右腕だあ!」
 その手は「メロイック・サイン」をしている。

 こういうエンディングだったから、カーテンコールではぜひメロイックを出したかった。でも、なんか、みんなふつうに拍手してるし、舞台にいる人も役者としてふつうにカーテンコールしてるし、タイミングがなかった(^^;


 カーテンコールで、komugikoは、もちろん上条と松のところで、特に一生懸命拍手。周りの何人かの人もそうだったので、わが意を得たりだった。主役の内野がとてもいいのに二人の後塵を拝す形になったが、それがこのマクベスだったかもしれない。有能なのに、レスポール王と妻、二つの迫力の間でうろうろしちゃった男。

  
◇◇◇

 
 プログラムはなつかしのLPサイズで、邪魔そうなので芝居が終わってから買った。はいはい、あたしはLPの時代からロック聴いてますからね。「宮殿」のジャケなんて、LPサイズでの迫力ったら……と、かつてを知っている人種の心をくすぐりやがって、嫌な商売だ。保存にも邪魔じゃん。買ったけど。
 中もLPの装丁。
 クドカンは、「記者会見ではシェイクスピア読んだことがないって言ってましたけど、すみません、いくつか読んでました」と書いている。いやな野郎だ。
 森山未来がダンスの人とは知らなかった。ふうん、あの動きの良さはそういうことか。劇中でもタップのシーンあったし。
 komugiko的においしかったのは、最近日本の深夜テレビでもおなじみのマーティ・フリードマンのインタビューがあったこと。んー、一番好きな部類に入るわけではないが、ジェイソン・ベッカーとやってるころから知ってるし、演歌ぶりっこの曲も聴いたし、MEGADEATHのライブも一応行ったし……なぜかかすっているギタリストなんで、親近感があるのだ。劇中で「メタルと演歌の融合」が出てきたとき、「そりゃマーティーだろ」ととっさに思う程度には知ってる。話はわりと普通のロック談義で、芝居とは関係なかったけどおもしろかった。……それなら音楽雑誌読めってか(^^;;;



シェイクスピア全集 (3) マクベス (ちくま文庫)

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マクベス (白水Uブックス (29))

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マクベス (新潮文庫)

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クリムゾン・キングの宮殿 (ファイナル・ヴァージョン)(紙ジャケット仕様)

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