観た!

観客。

青森の日:余談

人間椅子青森県内でのライブには、いつかは、一度は行きたいと思っていた。
ご当地、だからである。弘前がベストなのだろうが、彼らが選んだ県内のライブハウスなら弘前でなくてもよい、と思っていた。


「ご当地」に味を占めたのは、京都の南座上方歌舞伎を見たときである。
昔は上方歌舞伎江戸歌舞伎とは別の性格を持っていたというが、戦後世代から交流が始まり、片岡孝夫(現仁左衛門)が、江戸歌舞伎の看板である「助六」を銀座で演じたりもするようになったのである。
そういう時代になってから歌舞伎を観はじめたkomugiko00であるから、上方歌舞伎松嶋屋一門の芝居は、銀座で何度も見たことがあった。


だが、京都で上方歌舞伎、という雰囲気に誘われて、旅行もかねて出かけたのだった。
そうしたら、違った。
そのとき見たのは『封印切』。銀座でも見たことがある演目なのだが、ちがった。上方で、上方の役者が、上方の芝居を、上方の観客の前で演じると、なんともしんねりとしつこい空気が劇場を満たすのだ。
ああ、こういう芝居だったのか、と思った。


まあ、かといって、いろんなものせっせとご当地まで通ったわけではない。上記の体験をしながらも、基本、人間のイマジネーションを一番信じているタイプだから、かな。
それに、東京に住んでいれば観たいものは観切れないほどあるわけだし、方向音痴で場所見知りするので、旅行とかふつーにめんどい。
でもまあ、人間椅子に関しては、彼らが「青森」をはっきり意識し作品に反映しているバンドであってみれば、そこはやはり「一度は」「いつかは」であったりしたのだ。




今回、行く気になった理由は二つある。ひとつはこの夏、同級生の訃報が入ってきたこと。ごく若いころにも同級生が事故で亡くなった経験はあるのだが、それは本当に、特殊なできごとだった。だがこの年齢になって、病気による急死となると……いつまでもあると思うな命と健康、である。やりたいことはやっておけ。
それからもうひとつは、こちらの方が瞬発力になったのだが、ネット上で交流させていただいている、人間椅子コピーバンド毒達魔具達ドグラマグラ)」がなんとアマチュアながら前座を務めるという、奇天烈にも素敵な事態と相成ったからである。んじゃ行くかと。



    ★


人間椅子のMC、前座に関するあいさつ(「こんばんは、人間椅子です。そして毒達魔具達ファンのみなさん初めまして」ってやつね)、途中のトークでのいじり方(「なにがうれしいってベースの人のメタボぶり、そこまでコピーするか」とかね)、ふつーに犬神や夜叉と対バンのときと同じ。相手がアマチュアだろうとコピーだろうと、同じステージに立ったら同じ「バンド」として扱うわけだ。
このへんの椅子のお行儀のよさも好きである。


だから、最後の鈴木の、「毒達魔具達、今度はちゃんと用意してアンコール一緒にやりましょう!」は、内実のない社交辞令とは思わない。

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ライブでも芝居でも「終わったらさっさと帰る」komugiko00なのだが、この日はほかの人と話していたらなんとなく残ってしまい、そうしたらメンバーが普通に片付けに出てきて、「ステージを降りたプレイヤーに興味はない」「演者が見せようとしているものだけ見たい」komugiko00としたことが、鈴木のすっぴんを見てしまった。うおっとしまった。ま、なりゆきだからいいけど。
なじみのカレー屋で、オーケン(ヒビ無し)が隣で食ってたときと同じことか。