観た!

観客。

超かっけえっ、伊藤彦造

大正末期から、昭和40年代ぐらいまで活躍した挿絵画家である。
近い時代で有名なのは高畠華宵だろうか。
まあ、どちらも雰囲気は好きだけど、komugiko00は彦造の方が好みだ。んー、描かれている人物の年齢が高いし、少年であってもほっそりというより骨格がしっかりしているかんじがする。
波のように風のようになびきうねる髪、衣装、動きが身上。
komugiko00の好みとしてはカオがちょっと濃いのだが、それぐらい問題ではない。凛々しく、逞しく、色っぽく。


小学生のころ、子供むけの文学全集で南総里見八犬伝を読んだのだが、これの挿絵が(あとで知ったのだが)、彦造だった。ものすごくかっこよかった。
子供のころの本などは処分してしまったが、彦造の八犬伝と、いわさきちひろの小公子だけは保存してある。


文京区の弥生美術館には、このあたりの挿絵画家の作品が所蔵されていて、展覧会などもいったことがあるが、上記の八犬伝以外は、とくに絵は持っていなかった。
でも、やっぱりほしくなってこのほど購入。
いいわ〜、やっぱりいいわ〜。


現代の漫画家では、丸尾末広花輪和一は、影響を受けていると思う。
でも、彼らの方が線が硬いんだよね。丸尾は、桑田次郎も好きだったそうで、線のタイトさはそちらにちかいと思う。まあ、komugiko00は桑田もすきなんだけど。
丸尾も花輪も、筋肉はほとんど描かず、少年趣味なところはむしろ華宵の系譜か。
彦造の真髄は剣士にある。線はもっとのびやかで、「ぶわああああ〜」という迫力がいい。その迫力が、動きが、じつに繊細でシャープなペンの線の集合から成っているところもよい。というか、あれだからあの「風」が起こるのだろう。


今回本を買って初めて知ったのだが、彦造には娘がいて、伊藤浅子という本名で絵を書いていた。これが彦造そっくりである。あまりにも似ていたので、彦造が女性名を使っているとうわさされ、浅子は「自分がうまくなるほど父を汚す」と、筆を追ってしまったらしい。
彼女のえが3枚ほど載っているが、これがそっくりだ。本人と思われただけのことはある。タッチも、動きも、迫力も、彦造のそれである。表面的なまねではなくて、何か同じ精神を持っていたのだろうと思われる。
これを見てしまうと、もったいないとつい思ってしまう。あの絵が、2世代にわたって見られたかもしれないのに。今だったら、娘は筆を折らなかったろうな……。
でもまあ、その潔さも、伊藤家のかっけーところだって思おう。


しばらくは、この本を見ては、かっこいい!!と叫ぶ日々をすごそう。むふふ。
……あ〜、でも、これを見るにつけ、ほかにあんな絵もあったはず、こんなのもあったのでは、とも思ってしまう。拾遺版切望だが……。
いずれ国会図書館に通うか……。



伊藤彦造イラストレーション 〔新装版〕

伊藤彦造イラストレーション 〔新装版〕