観た!

観客。

団十郎という役者


当代市川団十郎である。
海老蔵の負傷に関する会見を見ていて、舞台の彼の特質そのままだなあと思った。


komugiko00的に最高の団十郎は、「吃又」である。
のろまで誠実。
ほかの誰の吃又よりも、団十郎のほかのどの役よりも、その役柄が際立った舞台だった。
団十郎の名前を継いだので、派手で大柄な役が多いけれども、この人は本当は、こういう役にリアリティのある光沢を見せることのできる役者なんだなと思った。たぶん、本人がこういう人柄なのだとも。


こういう特質がよく働くとは限らない。「加賀見山再岩藤」の岩藤の時には、もう、違う演出なのかと思うぐらいだった。
岩藤は局だけれども、怖い悪役なので、普段立役の役者が演じる。団十郎も体格からすると十分圧力があるのだが、どうしても悪人に見えない。
komugiko00が観たときにはお初が玉三郎だったのだが、これもある意味にあわない配役で…。
どう見えたかというと、「粗暴だが不器用で根は悪人ではない岩藤が、忠義という大義名分を持った、狡猾で野心的なお初にはめられた話」……ちがーう(^^;;;


団十郎の弁慶はいい。型、動きは最高である。
ただ、声と口跡の悪さはひどい。あれが「まぬけ」に見える一員だとも思う。
弁慶だと、舞の間はかっこいいので、ついこちらも夢中になって音声の欠点を忘れている。で、セリフにうつる第一声で、「あああああ(ガタガタガタ)」とずっこけてしまうのだ。
団十郎の声と口跡の欠点は、子供のころの病気のせいだとも聞いていたので、じゃあ海老蔵はだいじょうぶなんだろうと思いきや、声は悪くないが口跡はもごもごと籠もっていて、非常に残念だ(音声が悪いんだから、それこそ顔は命だよ、エビくん)。


色悪も悪くない。誠実でまぬけな感じがしつつも、役者としての「つや」はあるのだろうな。あの目眉や動きのよさで、それらしく見える。音声は、常時聞こえていると逆にこちらも「そこには注意を払わないようにする」ことができるので、まあ、なんとか。


で、会見に戻ると、団十郎の「のろまで誠実」な感じが、状況に向いていたと思ったりしたのだった。



海老蔵は、父親の病気のときに役者としての自覚がはっきり変わった。それ以降、ちゃんと次期団十郎としてやっているんだと思っていたので、今回は残念だ。



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