観た!

観客。

「松島屋の与兵衛兵がええんや」


と、おじいちゃんが言った。

いや、『ゲゲゲの女房』の、しげるの父のせりふである。
「銀座に芝居を観に」いってきて、『女殺油地獄』の話をしている場面である。


うん、と思わずテレビに返事した。


松島屋とは片岡仁左衛門だろう。
時代的に先代だろうな。
万が一当代の年少のころだったとして、おじいちゃんのような古い芝居通なら、「松島屋の三男坊」とでもいうだろうから。
……と、最初は思った。でも朝ドラでそんなせりふは煩雑だし、「時代的に言って」、やはり若き当代仁左衛門かな、と思い直した。


今の仁左衛門は、若いころ片岡孝夫の名前で、よく玉三郎と組んで美しい姿を見せていたから、歌舞伎ファンでなくても知っている人もいるかもしれない。


先代については、komugiko00も晩年しか知らず、油地獄も見たことはないが、足元がおぼつかなくなってからも立ち姿がすらりとして、白塗りにした顔は孝夫そっくりの整いようだった(孝夫よりちょっと短いかな)。
そりゃあこの人の与兵衛もよかったろうな。孝夫を気に入っていた森田勘弥は無論のこと。


で、「女殺油地獄」という演目は何度か見たが、片岡孝夫(当時)が格別だった。
最初のへろへろの若旦那ぶりもよし、女を殺して花道を引き上げるとこもよし。


こう、頼りない、情けない男をかわゆく演じる役柄では、彼にはずれはなかった。あの世代としては長身で顔立ちも険しいのだが、それがそういう役ではなよなよとちょっとナーヴァスに見えてよし。


花道を引き上げるところが特に物凄い。
ここは芝居の勘所で、「どう引っ込むか」が役者の見せ所である。
孝夫は白い歯を見せて、濡れた刃のような笑いを顔に張り付かせて、硬質な動きで走り去った。
勘九郎(当時)で見たときに、困ったような、悲しそうな顔をして、はかなげな小走りで去った。
どちらもよいけれども、どうしても孝夫が印象的だった。
この演出は孝夫が考えたものだとどこかで読んだと思うのだが、出典は忘れたので、確かめていない。
のちに若き当代市川染五郎が、孝夫系でこの演目をやっていたが、この場面では迫力が違った。成長した今ならどうだろうか。


うーん、どれも記憶が古いな(^^; 孝夫とか勘九郎とか。名前変わってんじゃん。
「団菊ばばあ」への道をまっしぐら(?)。
まあ、以前ほど歌舞伎に通わなくなっているせいもあるけれど。
『油地獄』は、孝夫と勘九郎の好対照の良い舞台を見たので、もう十分という感じもある。


まあ、歌舞伎はクラシックの音楽と同じで、もう知っている演目を、そのときのプレイヤーがどう演るか、という楽しみが大きいわけで。
いずれ誰かの与兵衛を見たくなるかもしれない。





今はYoutubeという便利なものがあった。
1/4のみ貼っておきます。↓