『きらきらひかる』

※江国香織の小説およびそれを原作とする映画とは別物

１９９８年にテレビドラマで見た。ものすごくおもしろかった。監察医ものである。
ビデオが発売されていたが、ＤＶＤが出るのを待っていた。ぜんぜん出ない！　うーんむ、なにかやばい事件とかぶっちゃったりしたっけ？（『ギフト』もＤＶＤにならない。あれはバタフライナイフのせいだと聞いた）。もう中古ビデオがふつうに手に入るのも時間の問題か……というわけで、買った。
１０年前だが……やはりおもしろい！

ＤＶＤを待っている間に、原作漫画を読んだ。
んーーーーーー！！！　「監察医」という仕事、死体検案の事項から編まれるストーリー、というところは原作どおりだが……。
ドラマを見てから原作を見ると、まず絵でぶっとぶ。
グロいわけではないが癖の強い絵で、死体の状態をしっかり描いてある。そりゃテレビドラマでは死体の描写なんかできんが、漫画にしてもその筆致が……いや、筆致自体が監察医という、死体に対して客観性とある種の愛情とも持った人のドラマにふさわしい精神性を感じさせるんだけどね。
だから、原作は原作でファンになった。

その後でこのドラマを見直してみると、脚本の巧みさに舌を巻く。もちろんそれを生かしたプロデュース、演出もね。

原作では、主人公「天野ひかる」は、大阪のお好み焼き屋の娘で、東大医学部を優秀な成績で卒業し、関西で監察医になる。
大学を出たばかりの女性が職業人として２流に見られるというシチュエーションもありつつ、抜群の能力を発揮していく。
舞台は彼女の生まれ育った関西の下町っぽさに満ちている。

ドラマの主人公「天野ひかる」は、東京の監察医局に研修医としてやってくる。熱心だがまだまだ未熟。それを先輩研修医・大学の法医学教授・刑事、の３人のオネエサマ方が罵倒しながら暖かく育ててくれる、という形になっている。またこれがものすごくスタイリッシュに仕上がっている。

原作は読みきり連載で、ドラマも基本的にはそうなのだが、法医学者杉の妹の話が、全体を通す謎として編みなおされ、その解決と、天野の研修期間終了が同期してドラマが終わる。
脚本うめええ〜〜。

女優さんがみんなきれいでかっこよく、そして上司を演じるギバちゃんがものすごくカッコイイ。室井管理官の前身だね。無口で、口を開くと東北訛りで的確なことを言う。

こう、あくまでかっこよくて、かわいげのある大人の女たちが出てくるのがうれしいよね。んー、このパターンの継承は『離婚弁護士』か。よい「大人」をちゃんと描くものが、社会には必要だ。よき大人と、それになろうとするワカモノが必要だ。

主人公天野は、あくまで一生懸命な新人として描かれ、そのへん新人ながら誰よりも優秀な原作天野とはちょっと違う。しかし、原作がもっていた、「科学という暖かさ」「冷静な癒し」という本質は変わらない。

今回見直して感じたのは、不慮の死の真相があきらかになっていったとき、誰も「あたしのせいよ〜〜〜」「おれが悪いんだ〜〜〜」とかいうセリフを言わないなということ。
日本のドラマそれが多すぎてイヤなんだよね。

それは、個人の感情ではそうなってしまうだけ。そういう事実に対して不正確な叫びは、つまりは生者の感情的都合を死者に負わせる行為……だからイヤ。実際には、それは偶然の重なった事故に過ぎない。
その偶然という一つ一つの事実を認識することで、「死者のコトバ」は本当に聞こえるのだ。

最後の物語だけ、ドラマのためのアレンジもあって、ちょっと感情面に偏ったけど、ぎりぎりふみとどまったかな。

作品テーマの持つスマートなやさしさを、「かっこいい女たち」という群像によって体現して見せた、秀作。

あまりによいのにＤＶＤがないので、珍しく作品情報を記しておく（You tubeで見られると思うけど）。

１９９８年　１〜３月放映作品　フジテレビ系

◆主な出演者
天野ひかる　　・・・・・・・・・　深津絵里
杉裕里子　　　・・・・・・・・・　鈴木京香
月山紀子　　　・・・・・・・・・　松雪泰子
黒川栄子　　　・・・・・・・・・　小林聡美

田所新作　　　・・・・・・・・・　柳葉敏郎

森田和也　　　・・・・・・・・・　野村祐人
喜多村隆三　　・・・・・・・・・　石丸謙次郎
綾小路真　　　・・・・・・・・・・　林泰文

杉冴子　　　　・・・・・・・・・・　篠原涼子

◆スタッフ
プロデューサー　山口雅俊
演出　　　　　　河毛俊作、石坂理江子、桜庭信一
脚本　　　　　　　井上由美子

主題歌　　　　「ニシエヒガシエ」　（Ｍｒ．Ｃｈｉｒｄｒｅｎ）

◆原作
　　　　　『きらきらひかる』　郷田マモラ（講談社）

きらきらひかる(1) [VHS]

きらきらひかる―浪速美人監察医物語 (File1) (講談社漫画文庫)

きらきらひかる