観た!

観客。

『ガープの世界』を紹介する


某所で漫然とした雑談をしていたとき、漫然の中に「村上春樹は英語もできる」というのが流れ入っていた。

それでkomugiko00が思い出すのは、ジョン・アーヴィングの『熊を放つ』である。村上春樹訳。
てなことを言ったら、村上ファンであるらしい一人が食いついてきた。ので、ちょっと紹介。
『熊を放つ』? うん、いい話だ。ある意味正しい青春小説。若者の友人同士の二人が、動物園に夜中に忍び込んで、熊を逃がそうとする話だ。
……あれ? ほんとうにそうだったっけ。それは村上春樹の話じゃなかったっけ。ちょっと不安に。間違いなく『熊を放つ』であるいくつかの場面は鮮烈に頭によみがえりつつ、そのあたりが自信なくなる。まいっか。
アーヴィングの第1作で、いかにも若書きの小説。以降のものに比べると単純でストレートで、そして若書きでしかでない香りがある。村上文体はそれに合っていたと思う。


さらに。
これもいいけど、私が好きなのは、なんと言っても『ガープの世界』だ。
というと、どんなものかと聞かれたので、これも紹介。
文庫で上下巻の長い話。冒頭の部分は主人公の母親の若い頃の話。

母親は看護婦で、自分の思考・理論をしっかり持っていた人だった。
ある日彼女は仕事の後に映画館に行く。すると隣に座ってきた男が、彼女の体をさわりはじめる。彼女はたまたまその日ハンドバッグに入っていたメスを取り出して、男の腕を切り裂く。
男は悲鳴を上げて飛び出していく。
続きを見る雰囲気ではなくなったので、彼女もロビーに出ていると、人々が騒いでいる。
お医者様はいませんか、けが人です、みたいな声が聞こえる。
そこで彼女は、私は看護婦ですと進み出る。
彼女の服は血だらけ。けが人彼女を見て悲鳴。

彼女は明解な論理を持っている。
「痴漢をしてくるような男には切りつけてしかるべき」
「自分は看護婦なのでけが人の手当てをする」
この二つは矛盾せず干渉しあわず成立する。


こういう彼女は、結婚や恋愛に関心は無いが、子どもは生みたいと思う。
ベトナム戦争の傷病兵を収容する医療施設で働いていたが、そこに一人の重傷の兵隊がやってくる。
認識票も無く、口もきけず、誰なのだかわからない。体も動かず、周囲を認識しているのかも不明。発する言葉は、「アープ」「ガープ」というような、発声だけ。
子作り器官は機能している。
それで、彼女はある夜この兵隊の上に乗っかる。妊娠する。兵隊死ぬ。
男の子が生まれる。
彼女はその子に、「ガープ」と名前をつける。

それがこの長い話の主人公だ。


それからそれから?! と聞かれたが、話さない。畳み掛けて展開していくガープの世界は、直接触れて楽しんでくれ、とだけ答えた。
……その場の記憶でしゃべったから、正確性には責任持ちません。



ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

ガープの世界〈上〉 (新潮文庫)

熊を放つ〈上〉 (中公文庫)

熊を放つ〈上〉 (中公文庫)