安土往還記
辻邦夫はおフランスな作家で、シュミがイモであるところのkomugiko00とは必ずしも相性がいいわけではなく、いくつか読んだが良く覚えていない。読んでいるときつまらないと思ったわけではないのだが、ある種の距離があった。
だが、これだけは大好きで何度か読んだ。
『安土往還記』
いちおう和物だし?
ここ何年かは読み返していないので、記憶で書いているわけだが。
最近、時代小説でお勧めはあるかと聞かれて、司馬遼太郎のいろいろと、あとはコレ、と思い浮かんだ。
これは織田信長の話である。
そのあたりの歴史や歴史小説がそこそこ好きならば、目新しくない、history=storyの展開ではある。
だがこれが他の時代小説と少し違うのは、さすがおフランスな作家のおヨーロッパな書き方になっているからだ。
つまり、ポルトガル人の船員の目を通して、当時の日本や信長が描かれていること。
ポルトガル人は、一足先に「近代」に踏み出していく人々だ。その視点を設定することで、近代の延長としての現代人のわれわれの視点に、そのまま覗き眼鏡でつながってくる。
だから信長も、いわゆる時代小説の武将というよりは、近代的自我というかなんという種類の芽生えを内包している人間としてみえる。その芽生えは内包されて、もちろん彼は出そうとしているのだが発揮しきれないまま大部分が内向し……黒々とタイトな信長像がそこにたっている。
と、感じる。
他人様に勧めたので読み返そうと思ったが、あの薄い文庫本は、どこにうまっちゃったかな(^^;
- 作者: 辻邦生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1972/04/27
- メディア: 文庫
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