観た!

観客。

人間椅子ライブ『電気仕掛けの怪』 名古屋

              2006.7.8. 於ell.FITS ALL


 鈴木食堂のカレーはやっぱり激辛(^^


 

あれ?! 鈴木が小林の「リアル嘘」を?!

 アンコールのMCの途中で、鈴木が突然こんなことを言った。
「今日はお足元の悪い中、ありがとうございました。外は雨が降っているそうです」
 えー!? という声が上がっていたけど、それとは別にkomugiko00は内心「え!?」と思った。これは、ラーメンズじゃないですか。それも片桐の「お足元」じゃなくて、小林賢太郎の「リアル嘘」そのもの。
 少なくとも外に出たときには降ってなかったし。地面が濡れてたようにも思わなかったんだけど。ほんとに降ってたのかなあ? 鈴木もこの種のギャグを言ってもおかしくないキャラではある。ふつうに考えれば、一度引っ込んだときに雨だとスタッフに聴いたのだろうが。
 真相はともかく、komugiko00はあれは線の両極がつながってループになる呪文だと思い込むことにしよう。これで両方同時にはまれるってことで。


 人間椅子を東京以外で見るのは初めてである。
 今回も最初は名古屋に行くつもりはなかった。しかし、7月1日の渋谷のライブの後、どうしても行きたくなって、先約があるのを調整してまで行ったのだ。
 これは演奏の力に他ならない。

 人間椅子の楽曲も演奏も好きだけれども、満足の%はライブごとに変わる。血液120%椅子化するようなものすごいものもあれば、まあその記憶があるせいかもしれないが、あ、今日は80%ですか、まあ楽しいね、という場合もある。
 1日の渋谷は120%だったのだ。
 新ドラマーがなじんだのか(そろそろ「新」という年月ではなくなってきたし)、おそらくさまざまなファクターが揃った結果だと思うが、ともかくどこがどうというより圧倒的な充実感があったのだ。
 120%よもう一度。というわけで、名古屋ぐらい、「ちょっとそこまで」じゃ。

 名古屋は数年ぶりだ。数年前は、友人がトランスのDJやるのを聴きに行った。今度は椅子に行くんだとその友人に言ったら、「またしても素敵に異様な来訪ですね」と言われた。

 素敵に異様な来訪は、演奏の力、そしてセットリストの力かも。
 「一曲目が『人間失格』」がそれほどインパクトがあったというか……場所によって多少セットリストがちがうわけで、そのへんどうするのかな、名阪は対バンあるけどどうなるのかな、という興味も動いた。

「行ける時に行っとくのよ」
これは親の遺言である。いや、ほんとに。べつに椅子の話じゃないけどさ。
それを言われた若い頃は、それほど実感しなかったが、今はわかるね。「行けない時」ってあるわけなんだよ。いろいろと。
 実際、昨年なら行けなかった。次にまた行けるかどうかもわからない(無常観)。いいライブは一度行けば一生もんだしね。
 行っちゃお。


 気合を入れて「コクーン歌舞伎 東海道四谷怪談」のTシャツを着ていった。黒地で、まるでメタルシャツだが、歌舞伎シャツなんだな、これが。



 まずは犬神サーカス団
 これもね、名前は前から聞いているわけですよ。Amazonで椅子のCDとか買っているからとどんどん勧められるし。いい機会かなと。ライブで試聴は贅沢。
 んー、なるほど、このライブで聴くかぎりここはヴォーカルバンドだね。
 komugiko00は、ロックの女性ヴォーカルというと、CHASTAINである。shinbashiが見つけてきたアメリカのローカルバンドだが、これが初代も2代目も女性、どちらも声潰して唸り飛ばす、椅子なんか鼻息で吹っ飛びそうな姐さんたちだ。
 だからま、あの要求水準で聴いているわけではないが、ん、伸びる声。声質そのものが椅子の二人よりずっといい。あたりまえか?(^^;まっとうな「シンガー」だ。
 曲調も悪くない。歌詞は聞こえる限りでは普通のオドロだけど。ギターが硬くてささくれた感じ。ちと速弾き入ってる? 
 アルバム買ってみようか……
 とか思ってたんだけど、最後の方の煽ってくるところで、逆にこっちがトーンダウン。……「死ね、死ね」*1はダメでした。どーとくテキにどうこうじゃなくて、単に趣味の問題と思ってもらっていいけど。近くに立ってた人たちがうれしそうに「しねしね」をやっていて、さらにムリに。あとで和嶋が「楽屋ではみんないい人」って言ってたけど、そのいい人が小さな自分の世界でしねしね言っちゃう日本の平和がダメなのkomugiko00。ごめんね、こういうやつで。そこだけでダメ出しをするのもどうかと思うが、ま、それが「客」ってもんだからね。あたし、それはそれこれはこれができるタイプだから、これがさよならなわけじゃなし。これを越える発見が次にあれば違うさ。
 またの出会いを待とう。

 ちなみに、アンコールで犬神のヴォーカルとギターを入れて5人で『リンゴの泪』をやったけど、あれはちょっとヴォーカルにかわいそうだったな。キーも合ってなかったし。komugiko00的には、犬神凶子で『夜叉が池』を聴いてみたい。



 オープニングはどうするんだろう、前に他のバンドががやっていたから、やはり渋谷とちょっと違う感じだけど。でもここで『人間失格』をやったら、いやって言うほど「これが人間椅子だあ!」となるけどなあ……と思っていたら、『恐怖! ふじつぼ人間』だった。そう来たか。まあ、順当か。あとは『瘋痴狂』『蟲』と、渋谷と同じ展開。もうこの2曲がまた聴けて、うれしゅうございます。

 初めての名古屋、初めてのライブハウスだが、何がうれしいって、ハコの大きさ。渋谷のOn Air Westよりだいぶ小さい。だいたい「いつもの位置」をとってもステージにずっと近く、しかも床に小さな段差があって後が高くなっている。これもうれしい。観やすい。名古屋の知人から音もいいしいいハコだと聞いていたのだが、そのとおりだね。
 渋谷で満足したので、今回は、ちゃんとベース以外もバランスよく聞けたし、いい時間を過ごさせてもらいました。

 最初のMCは、いつもの「今晩は人間椅子です」のあと、犬神サーカス団のファン(「犬っこ」というのだそうだ)にも配慮しつつのもの。「犬っ子のみなさん、初めまして。人間椅子の紹介をしなきゃいけませんね」と鈴木。そしてあのまったりした口調で改めて、
「三人なんです」
 客笑う。「見ればわかるよ」と和嶋。
 ここで、関係ないけどshinbashiを思い出してしまった。この、見ればわかることを言って、口調で笑わせてしまう「間」。shinbashiがよくやる。似てたのか(^^;


 鈴木MC。「ぼくはデビュー当時68キロで、現在86キロ。太り始めた頃作った曲をやります」。をを! 二度とやらないと言っていた『芋虫』だ! 渋谷で言っていたとおり、他の曲から続けないで、これからはじめるわけね。ま、ほんとは「太り始めた頃」じゃなくて「すっかり太ってから」の曲だけど。
 なにしろこの曲がマイブームになってしまっているkomugiko00なので、またしても聞けて、名古屋まで来た甲斐があったよ。あらためて、美しい曲です。
 こう、な、激辛なのにセンチメンタルなベースに、たっぷりと語っているのにどこか醒めたギターがな、たがいに絡むようなそむくような、な……。
 椅子だぁぁぁ! やっぱり椅子は演奏が圧倒的じゃ。ずっとインストでもいい。
 とはいえこの曲、ヴォーカルラインも好きなのだ。鈴木の声、これはライブ全部通して思ったけど、やっぱり渋谷のときが不調だったのかな。名古屋の方が安定感があった。

 この曲の後だったと思うけど、鈴木がまた半笑いで、「イベントだから長くならないようにしようって言ってたのに、またすごく長いギターソロでしたね。いつ終わるんだろうと思いましたよ」。
 和嶋は「打ち合わせの意味がありませんでしたね。止まんなくなっちゃって」とうれしそうに言っていた。客もうれしかったよ。

 『サバス・スラッシュ・サバス』から本家サバスへ移行するパターンは渋谷と同じ。でも、ハコの大きさのせいか、べつの感慨が。
 komugiko00もBlack Sabbathは好きだ。椅子にはまる前はサバスを聞いていた。というか、椅子はイカ天から知っていたけど、本格的にはまったのは、サバスファンに勧められてアルバム聴いてからだ。つまり椅子とkomugiko00の関係にはBlack Sabbathが切り離せないのさ。
 で。Black Sabbathは大好きだけど、ついにこの距離で聞いたことはない。
 だから、なんというか、この距離で70年代サバスを聴くのが、叶わぬ夢というべきで、なんていうかなあ、70年代にバーミンガムのライブハウスの客でいたかった一度はというか、んー、うまく言えん。もう、帰ったら久々に初期サバス聴きまくろう! とそのとき思った。

 そういえば、この前日、知人(Queenファン)と会った。ときどき往年の洋楽ハードロックの話をする相手である。椅子のライブ行くんだ〜るんるん、と言ったら、「いいなあ、今現役で活動しているバンドが好きで」と言われた。
 ん。komugiko00、「今現役で活動している日本のバンド」で好きなのは人間椅子だけなの。年に数回「も」、ライブにいけるうれしさを噛み締めています。

 そして『相剋の家』。(あ、毎度のことですがkomugiko00が書いているのは正確なセットリストではなく主観的なものです)。
 ドラムで始まり、その後のベースの遊びは今回はごく短く(パンクチュアルな鈴木らしく?)。 曲のよさ演奏の重厚さは言うまでもない。和嶋のヴォーカルがちょっと上ずってたね。音取りにくいのかな。中間部でマイクにエフェクトかけたのが、ちょっとビリビリしたし。しかし、そんなことはどうでもよいのである。
 深い満足を覚える一曲。

 「おれ歌っちゃっていいかな?」で、ナカジマノブ氏の一曲。今回は『ロックンロール特急』。彼は歌うまいなあ。声出るし。鈴木と和嶋はノリノリのロックンロール風パフォーマンス。和服で。いや、椅子じゃ普通だけどさ。

 えーと、それから『品川心中』だったろうか。
 中間部の和嶋の落語は渋谷のときよりも固さが取れていた。慣れたのと、ハコの大きさのせいかな。まあ、がんばってくれ。正直落語をやる気になったら鈴木やノブ氏の方がうまいんじゃないかとも思うが、そもそも好きじゃないとできないからね。
 そうそう、今回は座布団に座った和嶋の「首」が、聴衆の頭に乗っかっている……程度に見えた。
 それから『針の山』か。演奏もだが、鈴木ヴォーカルへの愛着が復活し、彼の調子が悪くないとなれば、倍化してうれしい曲。

 アンコールでは、上記の通り、『りんごの泪』に犬神サーカス団のヴォーカルとギターを加えて5人で。それからいつものMC入りで、『地獄風景』。

 最後は『ダイナマイト』。あ、「6連チャン」以降で両手を出す人が少ない。東京では基本的に両手だよね。など細かいところで土地柄が出るのかな。
 この曲では鈴木が墨染めを脱いで白衣で登場なのは東京と同じ……ただ、下半身は極端な尻はしょりで、褌がすっかり見えております。東京でもやってたのかもしれないけど、下半身見えなかったので。久々にここまで見えたよ(^^; ……あれ? 昔は褌まで見えてたよなあ。ということは定位置のつもりが、だんだん後ろに下がってるのかな、komugiko00。今度から少し前に行こう。いや、褌が見たいからじゃなくて(^^;


 さて。
 今回のkomugiko00的『電気仕掛けの怪』は充実の極みで終わりました(このあとまだ大阪であったわけだけど)。
 こういうのはバンドのコンディションとリスナーのコンディションが一致して初めて可能になる満足感だと思うのだ。
 次のライブでも、どちらのコンディションも良好でありますように。

 それにしても。
 今回つくづくこいつら幸せそうだなあと思った。
 いや、いろいろたいへんでしょうけど。
 帰京してから、一人の友人に言われた。「名古屋まで行ってもらえるとは、人間椅子は幸せ者だ」(彼は別ジャンルのクリエイター)。うん。
 いや、行ってやってるんだぞって意味じゃなくてさ。
 彼らが音楽を続けていることそのものが、しかもおそらく彼らを辞められない気持ちにする程度にはそれを理解する人間たちがいて、時に空間を共有することができ、そして何より、彼らが未だ創り続けていることが、幸せだ。
 彼らが40歳になって、人生をどう終わろうかを考えるようになったと言っていた。ん。私もそれは考えてる。今回名古屋まで行ったのも、そのささやかな一環だが。最後に向かって残りをどう生きるのか、を考える。
 彼らもそうだろうが、私ももっと年長のバンドを聴いてきた。だから知ってる。「一生音楽をやる」と口で言うのは簡単だが、演じ続け、創り続けることは、そう簡単にはいかない。意志も・状況も必要だ。条件が断たれることもある。条件が豊かにそろっていても創れなくなること、演じられなくなることはある。
 少なくとも今彼らは、条件はかつがつにしかないのだが、演じること、作ることができる。質を落とさずに。変わらず、変化し、場合によっては進歩して。
 komugiko00の価値観では、これは最も幸福なのだと思える。
 これからもその感覚と条件を彼らが失わないという保障は何もない。でも、保証が無いことを恐れて、演じたり創ったりすることをためらったら、そこで幸福は終わる。
 創れるときに創るのよ。
 一リスナーであるkomugiko00がここでこんなことを言わなくても、その幸福は彼らが一番よく知っていると思うけど。ふっきれているように見えるけれども。
 こんな「客」としてのブログ書いているけど、人は他人を拝んでいるだけでは幸福になれない。でも。
 彼らの幸福のために、「観る」ために、「お布施*2」を渡すのは悪くない。
 合掌。




修羅囃子

修羅囃子

形而上のエロス

形而上のエロス

*1:帰ってからshinbashiに話したら、「それはレインボーマン死ね死ね団の歌じゃないのか? なんか、日本人皆殺し〜、みたいな歌詞だったと思うよ」。あ、それならいい。内的・生活的ギリギリの状況を持つゲリラの言うセリフだと思うのだ。衣食足りてつるんで叫んで癒されるのは無理ナリ。

*2:お布施はご利益を買うだけじゃなくて、出家が仏の道に専念できるための現世の必要を補うために機能するものだ。そういう意味では、人間椅子のチケット代はまさしくお布施。精進してくれ