観た!

観客。

善知鳥神社

月初めに青森に行ったときのことである。
目的はライブなので、その前に体力を使いたくなかったのだが、せっかく青森市に来たのだから、善知鳥神社だけは行こうと思っていた。


能に『善知鳥』という曲がある。
旅の僧の前に猟師の霊が現れる。生前にたくさんの鳥を殺生したために、鳥に責められる地獄に落ちている。そのさまを見せ、後生を弔ってくれと言って消えていく夢幻能である。


この曲が非常に好きというのではないのだが、一度、すばらしい舞台を見たことがある。
シテはそれほどうまい演者ではないと思っていたのだが(激しい演目だと、若いのに息を切らすし(^^;)、このときは。
シテは細い竹を一本もって、それを鳥を取る道具になぞらえて演じる。シテが舞台の一点を見定めて、腰を落とし、左手で竹を持ち、それを使うためにゆっくりと右手を後方に構えた。
そのとき、縁者の見ている先に、すううっと水辺の距離が開け、狙っている一点、獲物が見えた。
すごい。能というのはこういうことができる芸能なのだ、と思った。これが見えるためには、客のほうも高度な緊張感を持って耐え続けなければならないのだが、ただ眺めているだけでは見えないものを、そうすれば見ることができる芸能。
それを教えてくれたのが、この『善知鳥』の演目だったので、忘れることができない。


だから、青森市=善知鳥神社であり、それがライブハウスから遠くないとなれば、始まる前に行ってみよう、と思ったわけだ。


行ってみた。神社自体はまあ普通の神社で、謡曲については碑が一つあるだけ。こちらもそれ以上を求めていたわけではなく、この風景でipodでも聴くのもいいかなと思っていたのだが、けっこう子供が走り回っていたりして落ち着かないので、帰ろうかな、と思う。本殿裏の方へ向かうと、鳩がたくさん群れていた。

小学生中学年ぐらいの男の子が一人、長い木の枝を振り回し、鳩を追って走った。
をい、善知鳥ゆかりの神社だぜ? と内心苦笑した。
地獄に落ちるぜ、猟師はそれでも食うためにやったのに(苦笑)。
なお鳩を追う子供に、母親の叱声が飛ぶ。
その口調からして、初犯ではないね。


ま、ちょっとおもしろいものを見せてもらったよ、と思いつつ、旅人はライブハウスへ向かうのであった。